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大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)142号 判決 1997年5月21日

千葉県市川市南八幡四丁目一〇番一四号

原告

安悦三

大阪市天王寺区東高津町一一番五-一三〇二号

原告

安悦子

大阪市天王寺区東高津町一一番五-一三〇二号

原告

安秀子

右原告ら訴訟代理人弁護士

太田稔

鬼追明夫

的場俊介

佐古祐二

大阪市中央区大手前一丁目五番六三号

被告

大阪国税局長 大武健一郎

右指定代理人

岩松浩之

吉岡豊

平田豊和

佐藤香

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、亡安在(平成六年三月二四日死亡、以下「亡在」という。)の相続に係る相続税について、原告らに対し、次の事実を前提とする更正を行わなかったことが違法であることを確認する。

1  平成四年九月一日及び平成五年九月一日に亡在が同人の相続人らに贈与した六億七〇五九万円は、課税上、亡在の遺産(以下「本件遺産」という。)に属するものとされること。

2  安本産業株式会社及び日本有機化学工業株式会社の各株式(評価額合計二九億四四六九万四二五六円)は本件遺産に属すること。

3  住友銀行東大阪支店における亡在の各相続人名義の普通及び定期の各預金(七億三七七五万〇〇三六円)は本件遺産に属すること。

4  登記簿上、昭和五六年に原告安悦子、同安秀子及び安容子が共有名義で取得したとされている不動産(グランドハイツ、エンパイヤパーキング)(取得価額四億一二五〇万円)は本件遺産に属すること。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文に同じ。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  亡在は、平成六年三月二四日大阪市天王寺区小橋町九番二〇号において死亡した。同人の相続人は、別紙相続図のとおり、原告ら三名を含む九名の子である。

2  原告らは、平成六年一一月二二日、天王寺税務署長に対し、亡在の相続に係る相続税の申告書を提出した。

3  原告らは、右相続税の申告について、外国税額控除(相続税法二一条、国内法において外国で課税された同種の租税について認めた税額控除)の適用を受けることとなったこと及び大韓民国に存する墓地について評価誤りがあったことを理由に、平成八年一月三〇日、天王寺税務署長に対し、相続税の更正の請求書を提出した。

天王寺税務署長は、同年三月六日付けでそれぞれ右の更正の請求の内容を認める減額更正を行った。

4  被告部下職員は、平成八年六月上旬、原告らの相続税の申告について調査を開始し、同年七月二日には、右調査の結果に基づいて、原告安悦三及びその代理人税理士菊岡高明に対し、さらに亡在の遺産として安本産業株式会社及び日本有機化学工業株式会社の相続人ら名義の株式はいわゆる名義株であること等の相続税の増額事由があるとする請求の趣旨記載の1ないし4の事項を記載した書類(甲第四号証、以下「提示書類一」という。)と相続人ら名義の右の株式を遺産とはしないが他の増額事由があるとの内容の修正申告モデル案を記載した書類(甲第五号証、以下「提示書類二」という。)を提示し、相続人らにおいて提示書類二の内容を前提とする修正申告をするか、又は右修正申告をせず提示書類一の内容を前提とする増額更正処分を受けるかのいずれかを次回調査期日までに回答するよう求めた。

5  亡在の相続人のうち安昌柱、安昌成、安悦司は、右4の相続人名義の各株式のうち右三名名義のものは、右三者が亡在から生前贈与を受けたと主張して、本件遺産に属することを争っていた。

6  原告らは、右5の各株式が相続財産に属するのであるから、仮に多額の課税がなされるとしても、提示書類一の内容を前提とする更正処分を受けるべきであると考え、原告安悦三において平成八年七月二二日、被告部下職員に対し、別紙株式目録記載の株式は相続財産に含まれるのであり、提示書類二の内容は真実に反するので同書類に基づく修正申告をするこはできない旨回答したところ、被告部下職員は、それまでの態度を変更して、提示書類一の内容を前提とする更正処分を行わないこととなった、仮に原告らが提示書類二の内容を前提とする修正申告をしないのであれば、提示書類二の内容を前提とした更正処分を行うことで今回の調査を終結する旨述べた。

7  原告らは、同年八月二七日付けで、被告に対し、国税通則法(以下「通則法」という。)二七条に基づき、亡在の相続に係る相続税について、提示書類一の内容を前提とする更正処分を求める旨の請求(以下「本件請求」という。)をした。

8  天王寺税務署長は、同年九月二四日付けで、原告らに対し、提示書類二の内容を前提とする増額更正処分をした。

9  被告は、同年九月二〇日、天王寺税務署長に本件請求を移送し、同税務署長は、同月二六日付けで、原告らに対し、更正をすべき理由がない旨の通知をした。

10  被告は、当初提示書類一の内容を前提とする更正処分を行う旨述べていたにもかかわらず、これを調査に関係のない天王寺税務署長に移送して提示書類二の内容を前提とする更正処分をさせたものであるが、これは、何らかの不正な勢力による枉法的な力が働いた結果、背任的な行政処分が行われたことによるものであり、被告の措置は禁反言の法理に反する。

11  よって、原告らの求めたとおりの内容の更正処分を被告が行わなかった不作為は違法であるから、原告らは、被告に対し、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)三七条に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  被告の本案前の主張

以下のとおり、本件訴えは訴訟要件を欠き不適法である。

1  行政法三条五項に規定する不作為の違法確認の訴えにおいて、被告適格を有する者は、処分をする権限があり、かつ私人からの申請に対応する処分その他公権力の行使に当たる行為をしなかった行政庁であるところ、本件においては、本件相続に係る相続税の調査は処分庁である税務署の上級庁である大阪国税局の職員によってされたものであるが、更正処分をする権限は税務署長が有していることに変わりはない。本件の被告適格は亡在の最後の住所地を所轄する天王寺税務署長にあり、被告は本件訴訟の被告適格を有しない。なお、通則法二七条の「更正」は、同法二四条の「更正」と異質のものではなく、更正の根拠となる調査主体が異なるに過ぎず、本件請求も結局通則法二四条に基づくものに他ならない。

2  更正処分とは、納税申告書に係る課税標準又は税額等を増加又は減少させる処分であり、その前提となる事実認定について判断するものの、その事実認定自体が処分の内容となるものではない。本件訴えは、原告らが不作為として違法確認を求める処分の内容を具体的数額に基づいて記載せず、原告の主張する各遺産の帰属について原告に対し一定の事実認定をするよう求めるに他ならないから、請求の趣旨は特定していない。

3  通則法二四条に基づく更正処分を求め得るとの法令上の規定はなく、単に税務当局に対し更正処分の発動を促す性質のものに過ぎず、税務署長において何らかの処分をすべき法令上の義務を存しないから、本件請求は、行訴法三条五項にいう「法令に基づく申請」には当たらず、不作為の違法確認請求の訴訟要件を欠く。

三  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  原告は、通則法二七条に基づく更正処分を求めているものであるから、本件において被告適格を有するのは大阪国税局長である。

2  不作為の違法確認の訴えにおいて、「法令に基づく申請」とは、元来は法令上の制度として行政上に応答義務を負わせるような申請権がある場合における申請を意味するものであるが、本件の場合のように、被告部下職員の言動から行政庁として応答をすべきことが禁反言の法理から義務付けられる場合においては、法令による申請権を有しなくても、現実に申請をすれば足りる。また、不作為の違法確認の訴えにおいて、申請権に基づく申請であるか否かは本案において判断されるべき問題である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおり。

理由

一1  原告らの主張によれば、原告らは行訴訟三条五項、三七条に定める不作為の違法確認の訴えとして本件訴えを提起するというのである。そして、不作為の違法確認の訴えにおいて被告適格を有する者は、原告の申請に対応する行政処分を行う権限を有する行政庁であるが、本件において原告らは、亡在の相続に係る相続税について、被告が本件請求に対応する更正処分をすべきところ、それをしないことが違法である旨主張しているのであるから、原告らが本件請求により求める更正処分は通則法二四条に基づくものと解するほかなく、右更正処分を行う権限を有する行政庁は当該国税の納税地を所轄する税務署長である(通則法二四条、三〇条一項)。通則法二七条は、国税庁又は国税局の職員の調査があったときにも税務署長が更正処分を行う権限を行使する上において右調査の結果を活用することを可能とする趣旨であり、その性質において通則法二四条の更正処分と何ら変わるところはなく、国税局の職員の調査があったときも、税務署長が更正処分を行う権限を有するものであることはその文言上も明らかである。

本件において相続税の更正処分を行う権限を有する者は、右相続税の納税地である亡在の死亡の時における住所地を所轄する税務署長である天王寺税務署長である(相続税法附則三項)ことは、甲第一号証及び弁論の全趣旨から明らかである。したがって、本件の被告である大阪国税局長は被告適格を有しない。

2  また、不作為の違法確認の訴えは、「行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべき」場合であることをその要件とする(行訴法三条五項)ところ、「法令に基づく申請」とは、法令上私人が行政庁に対し一定の事件について処分又は裁決すべき旨を申請する具体的請求権が認められているものであることを要すると解されるが、通則法二四条に基づく更正処分は、申告に係る課税標準又は税額が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他調査したところと異なるときに、右調査に基づき、課税庁の側において職権により課税標準又は税額を変更する権能を課税庁に与えたものであって、納税者が更正処分を求める申請権を有すると解すべき根拠はない。そうすると、本件請求は「法令に基づく申請」には当たらないから、本件訴えは、行政法三条五項に規定する不作為の違法確認の訴えの訴訟要件を欠くものというべきである。

二1  もっとも、原告らの請求は、本件請求に対して何らの応答もしないことが違法であるというのではなく、請求の趣旨1ないし4記載の各財産が本件遺産に属することを前提とする更正処分という一定の内容の行政処分をすべき義務があるとして、右処分をしないことが違法であることの確認を求めるというのであるから、その実質は行訴法三条五項に定める不作為の違法確認の訴えというよりは、むしろ一種の無名抗告訴訟と解すべきものとも考えられる。

2  しかしながら、右のように解したとしても、原告らの求める更正処分を行う権限を有する行政庁が被告適格を有するというべきであるから、前記一1判示のとおり本件訴えは被告適格を欠くものといわざるを得ない。

3  また、更正処分は、申告に係る課税標準又は税額、すなわち数額を変更するものであって、その前提として課税庁が認定した事実自体が処分の内容となるものではないものであるところ、原告らの求める更正処分の内容は、何ら課税標準又は税額を特定するものではなく、その性質上行政処分の内容とならない事項に係るものであるから、この点においても本件訴えは不適法である。

4  そして、右のような無名抗告訴訟は、<1>行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上羈束されており、行政庁に自由裁量の余地が残されていないため、行政庁の第一次判断権を留保することが必ずしも重要ではないと認められ、<2>事前審査を認めることによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であり、<3>他に適切な救済方法がない、という各要件を充足する場合に限り許容されるものと解されるところ、本件においては、原告らの主張及び甲第四、第五号証、第六号証の一、第一一号証の一ないし三によれば、原告らの求める更正処分が何ら相続税課税上原告らに利益をもたらすものではないと認められる。なお、甲第二号証によれば、原告らは、他の相続人らとの間において、別紙株式目録記載の株式が本件遺産に属するか否かについて別訴で係争中であることが認められるが、本件遺産の範囲についての課税庁における事実認定が法律上右別訴に何ら影響を及ぼすものではない。したがって、本件において右<2><3>の要件を欠くことも明らかである。

5  右によれば、本件訴えを無名抗告訴訟と解しても、訴訟要件を欠くことが明らかであり、不適法であるという他はない。

三  以上によれば、本件訴えは、いずれの観点からも不適法であることが明らかであり、その欠缺を補正する余地はないから却下を免れず、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 加藤正男 裁判官 西川篤志)

相続図

<省略>

株式目録

<省略>

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